「合同会社で起業したけれど、取引先や採用のことを考えると株式会社にしたい」
「合同会社から株式会社に変更することはできるの?」
こうしたご相談は、合同会社の設立が身近になった近年、とても増えています。
結論から言うと、合同会社から株式会社への変更は可能です。会社法上の「組織変更」という手続きを行います。この記事では、組織変更の基本から手続きの流れ、必要書類、費用・期間の目安、注意点までを整理してお伝えします。
この記事のポイント
- 合同会社→株式会社は「組織変更」で可能(法人格は同じまま)
- 効力発生日の前日までに総社員の同意(定款に別段の定めがある場合を除く)と、債権者保護手続きが必要
- 定款の公証人認証は不要
- 資本金は、組織変更前の合同会社の額がそのまま引き継がれる
- 効力発生日から2週間以内に「設立登記」と「解散登記」を同時に申請
- 登記後は、不動産の名称変更登記・各種届出など「登記以外のやること」も忘れずに
合同会社から株式会社へ変更できる?
できます。会社法では、合同会社・合名会社・合資会社(まとめて「持分会社」といいます)と、株式会社との間で、会社の種類を変更する手続きが認められています。これを「組織変更」といいます(会社法743条)。
組織変更の大きな特徴は、会社が解散・清算されるわけではなく、法人格が同一のまま会社の種類だけが変わるという点です。そのため、取引先との契約、雇用関係などは、原則としてそのまま続きます。
「組織変更」と「株式会社を新しく作る」の違い
株式会社にしたい場合、実は次の2つの方法が考えられます。
| 組織変更 | 新たに株式会社を設立して事業を移す | |
|---|---|---|
| 法人格 | 同一のまま | 別の法人になる |
| 契約・許認可 | 原則そのまま(名称変更の届出等は必要) | 引き継ぎ・再取得が必要になることが多い |
| 不動産・預金など | 名称変更の手続きのみ | 譲渡・名義変更が必要 |
| 債権者との関係 | 債権者保護手続き(公告・催告)が必要 | 債務の引受けに債権者の承諾が必要になるのが通常 |
| 手続きの負担 | 比較的シンプル | 手続きが多くなりがち |
事業をそのまま続けたいのであれば、多くの場合は組織変更のほうが負担が小さいと言えます。
合同会社から株式会社に変更するメリット・デメリット
メリット
- 対外的な信用力・知名度の向上:取引先の社内基準で「株式会社であること」が条件になっているケースがあります。
- 採用面での安心感:求職者にとって、株式会社のほうが馴染みがあり安心されやすい傾向があります。
- 資金調達の選択肢が広がる:株式の発行による出資の受け入れなど、将来の資金調達や事業承継の幅が広がります。
- 将来の株式公開を視野に入れられる:合同会社のままでは株式上場はできません。
デメリット・注意点
- 機関の設置が必要:株式会社には取締役の設置が必要で、運営ルールも合同会社より厳格になります。
- 役員の任期管理:取締役には任期があり(非公開会社は定款で最長10年まで伸長可)、任期満了ごとに役員変更登記が必要です。
- 決算公告の義務:株式会社は決算の公告義務があります。
- 手続きの費用と時間:債権者保護手続き(官報公告など)があるため、一定の期間と費用がかかります。
ポイント
「株式会社のほうが立派に見えるから」という理由だけでなく、今後の事業計画(資金調達・採用・取引先の要望など)を踏まえて、変更するメリットが上回るかを考えるのがおすすめです。
組織変更の手続きの流れ
おおまかな流れは次のとおりです。
- 組織変更計画の作成
- 総社員の同意
- 債権者保護手続き(官報公告・個別の催告)
- 効力発生日(組織変更の効力が生じる日)
- 登記の申請(設立登記+解散登記)
- 登記後の各種届出・名義変更
1. 組織変更計画の作成
合同会社が組織変更をするときは、次のような事項を定めた「組織変更計画」を作成します(会社法746条)。
- 組織変更後の株式会社の目的・商号・本店所在地・発行可能株式総数
- 上記のほか、組織変更後の株式会社の定款で定める事項
- 組織変更後の株式会社の取締役の氏名(監査役などを置く場合は、その氏名も)
- 社員(出資者)が組織変更に際して取得する株式の数と、社員ごとの割当てに関する事項
- 株式以外の金銭等を社員に交付する場合は、その内容と割当てに関する事項
- 効力発生日
株式会社の商号には「株式会社」の文字を入れる必要があり、従前の「合同会社」の文字は使えません。
資本金はどうなる?
組織変更後の株式会社の資本金の額は、組織変更の直前の合同会社の資本金の額がそのまま引き継がれます(会社計算規則34条1号)。資本金を増やしたい場合は、別途、増資などの手続きを検討することになります。
2. 総社員の同意
組織変更計画について、効力発生日の前日までに、総社員の同意を得る必要があります(会社法781条1項)。ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りではありません。
原則として全員の同意が必要となる点が、株主総会の多数決とは大きく異なります。社員が複数いる場合は、事前に意見をよくすり合わせておくことが大切です。
3. 債権者保護手続き
組織変更では、会社の債権者に不利益が生じないよう、次の手続きを行います(会社法781条2項・779条)。
- 官報に公告する(組織変更をする旨、債権者が1か月以上の一定期間内に異議を述べられる旨)
※株式会社の組織変更とは異なり、計算書類に関する事項の公告は不要です。 - 知れている債権者には、個別に催告する
なお、合同会社の定款で公告方法を「日刊新聞紙」または「電子公告」と定めており、官報に加えてその方法でも公告した場合は、個別の催告を省略できます。定款の公告方法が官報のみの場合は、個別の催告が必要ですのでご注意ください。
異議を述べた債権者がいる場合は、弁済・担保の提供などの対応が必要になります(組織変更をしても債権者を害するおそれがない場合を除く)。
4. 効力発生日
組織変更計画で定めた効力発生日に、合同会社は株式会社になります(会社法747条)。効力発生日までに債権者保護手続きを終えておく必要があるため、日程は余裕をもって設定しましょう。
5. 登記の申請
効力発生日から2週間以内に、本店所在地を管轄する法務局へ、次の登記を同時に申請します(会社法920条)。
- 組織変更後の株式会社についての設立の登記
- 組織変更前の合同会社についての解散の登記
なお、組織変更では定款の公証人による認証は不要です。新規に株式会社を設立する場合との大きな違いです。
代表取締役の選定のタイミングに注意
組織変更後の株式会社の代表取締役は、効力発生日以降に、取締役会の決議や取締役の互選などで選定する必要があります(組織変更計画書や定款で最初の代表取締役を定める方法もあります)。効力発生日より前に選定してしまうと、登記の添付書面として使えないおそれがありますので、スケジュールに組み込んでおきましょう。
6. 登記後の各種届出・名義変更
登記が完了したら、次のような手続きを忘れずに行いましょう。
- 会社が不動産を所有している場合の登記名義人の名称変更登記
(令和8年4月1日から、名称変更の日から2年以内の申請が義務化されています。法人については、会社法人等番号を用いた職権による登記の仕組みもありますので、最新の取扱いを法務局のホームページでご確認ください) - 税務署・都道府県・市区町村への異動届出
- 年金事務所・ハローワーク等への届出
- 銀行口座・契約書・請求書・名刺・ホームページ・許認可の名称変更
必要書類の主なもの
登記申請にあたって準備する主な書類は、次のとおりです(会社の状況により異なります)。
- 登記申請書(設立の登記・解散の登記)
- 印鑑届書
- 組織変更計画書
- 総社員の同意書
- 定款(組織変更計画書の記載を援用する方法もあります)
- 代表取締役の選定に関する書面
- 取締役・代表取締役(監査役を置く場合は監査役も)の就任承諾書、本人確認証明書
- 公告および催告をしたことを証する書面(官報の写し、催告書の控えなど)
- 異議を述べた債権者がいる場合は、弁済等をしたことなどを証する書面
- 登録免許税法施行規則12条4項の規定に関する証明書
- 委任状(司法書士などの代理人に依頼する場合)
なお、合名会社・合資会社の組織変更では「資本金の額の計上に関する証明書」の添付が必要ですが、合同会社の場合は、組織変更直前の資本金の額が登記事項から明らかであるため、添付は不要とされています。
期間と費用の目安
期間
債権者が異議を述べることができる期間が1か月以上必要なため、書類作成から登記完了まで、全体で1.5〜2か月程度を目安にしておくと安心です(債権者の数や準備状況により前後します)。
費用
主な費用は次のとおりです。
- 登録免許税
- 設立の登記:資本金の額の1000分の1.5(税額が3万円未満のときは3万円)
- 解散の登記:3万円
- → 最低でも合計6万円がかかります。資本金が2,000万円以下であれば、設立分は最低額の3万円となります。
- 官報公告の掲載料(文字数・行数により異なります)
- 司法書士報酬(専門家に依頼する場合)
- 不動産の名称変更登記などの費用(不動産を所有している場合)
個別の費用は会社の状況によって変わりますので、詳しくは専門家にお問い合わせください。
よくある質問(Q&A)
Q. 組織変更をすると、契約や許認可はどうなりますか?
A. 法人格が同一のため、契約は原則として引き継がれます。ただし、名称が変わるため、許認可の変更届や契約書の名称変更などが必要になる場合があります。許認可の扱いは業種ごとに異なりますので、所管の役所に確認しましょう。
Q. 社員が1人だけの合同会社でも組織変更できますか?
A. できます。社員が1人であれば、その方の同意で足ります。
Q. 反対する社員がいる場合はどうなりますか?
A. 組織変更には原則として総社員の同意が必要ですので、反対する社員がいる場合は進められません。ただし、定款に別段の定め(たとえば多数決で足りるとする定め)がある場合は、その定めによります。まずはご自身の会社の定款を確認してみましょう。
Q. 資本金はいくらになりますか?
A. 組織変更前の合同会社の資本金の額がそのまま引き継がれます。
Q. 株式会社から合同会社に戻すこともできますか?
A. できます。株式会社から持分会社への組織変更も認められています(この場合は手続きが異なります)。
Q. 税金面での影響はありますか?
A. 法人格が変わらないため、社員に株式のみが交付される場合は、一般に特段の課税関係は生じないと考えられています。ただし、株式以外の金銭等を交付する場合など、個別の事情によって異なりますので、税務については税理士にご確認ください。
まとめ
- 合同会社から株式会社への変更は「組織変更」で可能
- 法人格は同一のまま、契約は原則として引き継がれる
- 手続きは「組織変更計画の作成 → 総社員の同意 → 債権者保護手続き → 登記申請」の流れ
- 登記は効力発生日から2週間以内に、設立登記と解散登記を同時に申請
- 登録免許税は最低6万円、期間は1.5〜2か月程度が目安
組織変更は、債権者保護手続きや登記申請の期限管理、代表取締役の選定時期など、注意すべき点が少なくありません。「うちの場合はどう進めればいい?」「費用はどのくらい?」など、お悩みの方はお気軽にご相談ください。
