登記識別情報(いわゆる「権利証」に代わるパスワードのようなもの)は、紛失すると再発行ができない、という話を聞いたことがある方も多いと思います。しかし、紛失してしまった場合や、第三者に見られてしまった可能性がある場合に、その登記識別情報そのものを無効にしてしまう「失効申出」という制度があることは、意外と知られていません。
今回は、この登記識別情報の失効申出制度について、根拠となるルールや手続きの流れ、似た制度との違いをあわせて解説します。
登記識別情報とは(おさらい)
登記識別情報は、平成17年の不動産登記法改正により、従来の「登記済証(権利証)」に代わって導入された制度です。12桁の英数字からなる符号で、登記が完了した際に登記名義人に対して一度だけ通知されます。次にその不動産を売却したり担保に入れたりする際、この符号を登記申請時に提供することで、「間違いなく登記名義人本人からの申請である」ことを確認する資料として使われます。
失効申出とはどんな制度か
登記識別情報の失効申出は、不動産登記規則65条に基づく制度で、登記識別情報の通知を受けた本人(登記名義人)、またはその相続人その他の一般承継人が、登記官に対して「この登記識別情報を無効にしてください」と申し出る手続きです。
申出が受理されると、その登記識別情報は効力を失い、以後の登記申請にその符号を使うことができなくなります。「盗まれたかもしれない」「紛失して不安が拭えない」といった場合に、先回りして悪用のリスクそのものを断ってしまう、という制度です。
どんな場面で利用されるのか
- 登記識別情報通知書を紛失し、第三者に見られている可能性がある場合
- 空き巣や盗難などで通知書そのものが持ち去られた場合
- 実家の整理などで、古い通知書の管理に不安を感じ、念のため無効化しておきたい場合
- 相続した不動産について、被相続人宛の通知書が見つかったが真正性に不安がある場合
いずれのケースも、「もう使う予定がない」「悪用されるリスクを断ちたい」という共通点があります。
失効申出の手続きに必要なもの
失効申出は、書面またはオンラインのいずれの方法でも行うことができます。一般的に必要となる書類は次のとおりです。
- 申出人(登記名義人本人または相続人等)の印鑑証明書(作成後3か月以内のもの)
- 相続人など一般承継人が申出をする場合は、相続関係を証する戸籍謄本等
- 申出人が法人の場合は、代表者の資格を証する書面
- 代理人によって申出を行う場合は、委任状
これらの書類とあわせて、対象の不動産・登記の目的や登記原因を特定した申出書を、管轄の法務局に提出します。
失効させても、その後の登記手続きに支障はない
「登記識別情報を失効させてしまったら、将来その不動産を売るときに困るのでは」と不安に思われる方もいらっしゃいますが、心配は不要です。登記識別情報を提供できない場合に備えて、次のような代替手段があらかじめ用意されています。
- 事前通知制度:登記識別情報を提供せずに登記申請をした場合、法務局から登記名義人(登記義務者)宛に「このような登記申請がありましたが、間違いありませんか」という通知が送られ、一定期間内に署名・押印して返送することで登記が実行される制度
- 本人確認情報の提供:司法書士が本人と面談し、運転免許証等により厳格な本人確認を行ったうえで作成する「本人確認情報」を、登記識別情報の代わりに提供する方法
つまり、登記識別情報を失効させたとしても、これらの代替措置によって以後の登記手続き自体は問題なく進めることができます。「使えなくなること」自体を心配して失効申出をためらう必要はありません。
「不正登記防止申出」との違い
似た制度に「不正登記防止申出」があります。両者は目的も要件も異なるため、混同しないよう注意が必要です。
- 失効申出:不正な登記が行われる差し迫った危険があるかどうかに関わらず、登記識別情報そのものの効力を失わせる制度
- 不正登記防止申出:登記識別情報の盗難等により、不正な登記がされる差し迫った危険がある場合に、その特定の不正登記申請を防止するために法務局へ申し出る制度(一定期間、法務局が警戒態勢をとる)
「とにかくこの符号自体を無効にしたい」場合は失効申出、「差し迫った不正登記の危険があり、今まさに警戒してほしい」場合は不正登記防止申出、というように使い分けるとイメージしやすいでしょう。
まとめ
登記識別情報の失効申出制度について、ポイントを整理します。
- 不動産登記規則65条に基づき、登記名義人本人やその相続人等が、登記識別情報そのものを無効化できる制度
- 紛失・盗難・管理への不安がある場合に、悪用リスクを未然に断つ目的で利用される
- 申出には印鑑証明書(3か月以内)や戸籍謄本等が必要で、書面・オンラインいずれでも申出可能
- 失効させても、事前通知制度や本人確認情報の提供により、その後の登記手続きに支障はない
- 差し迫った不正登記の危険がある場合は、目的の異なる「不正登記防止申出」の利用も検討する
「実家を整理していたら古い権利証が出てきたが、本人が誰か分からず不安」「登記識別情報通知書を紛失してしまった」といったお悩みがある方は、当事務所までお気軽にご相談ください。
