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相続人の最低限の保障である遺留分について

遺留分制度は、令和元年に施行された民法改正によって大きく見直されました。
それまでの旧制度(遺留分減殺請求権)では、遺留分を侵害された相続人は、不動産などの財産そのものについて返還を求めることができました。
しかし、この仕組みは相続紛争を長期化させやすく、特に自宅や事業用資産をめぐるトラブルが大きな問題とされていました。

そこで導入されたのが、現行の「遺留分侵害額請求権」です。
新制度では、遺留分侵害の救済手段を金銭請求に一本化
し、不動産の返還請求は認められなくなりました。
この改正により、相続財産の帰属関係を安定させつつ、遺留分権利者の保護を図る制度へと転換しています。

なお、この改正は一時的な経過措置ではなく、令和8年現在も引き続き適用されている現行ルールです。
本記事では、旧制度との違いを踏まえたうえで、遺留分侵害額請求権の内容や実務上の注意点を詳しく解説します。


目次

遺留分制度の基本構造

旧制度(平成30年以前)

  • 名称:遺留分減殺請求権
  • 性質:物権的請求
  • 内容:不動産そのものの返還請求が可能

現行制度(平成31年改正民法〜)

  • 名称:遺留分侵害額請求権
  • 性質:金銭債権
  • 内容:侵害額に相当する「金銭請求」のみ

 不動産の返還請求は出来ません。金銭請求のみが出来るようになりました。


遺留分侵害額請求権とは

遺留分制度とは、被相続人が遺言や生前贈与によって自由に財産を処分した場合でも、
一定の近親者には最低限の取り分を保障する制度です。

これは、

  • 相続人の生活保障
  • 被相続人による極端な財産処分の抑制
    を目的としています。

ただし、遺留分は「法定相続分そのもの」ではなく、あくまで最低限保障される割合にすぎません。

遺留分を請求できる相続人


遺留分が認められるのは、次の相続人に限られます。

相続人遺留分の有無
配偶者あり
あり
直系尊属(父母など)あり
兄弟姉妹なし

※ 兄弟姉妹には遺留分は認められていません。

請求の対象になる行為

1.遺贈

  • 遺言による財産の譲渡

2.生前贈与

遺留分侵害額請求の対象となる生前贈与は、相続人と相続人以外の第三者への贈与で次のように区別されています。

① 相続人に対する生前贈与

🔹 原則

特別受益に該当する贈与のみが対象です。

つまり、

  • 単なる日常的な援助
  • 少額の贈与

は原則として対象になりません。

🔹 特別受益とは

「婚姻、養子縁組、生計の資本としての贈与」

具体例:

  • 住宅購入資金の援助
  • 事業開業資金
  • 多額の持参金
  • 高額な不動産贈与

これらが典型例です。


🔹 期間制限

相続人に対する特別受益は 相続開始前10年以内のものが対象です。
ただし例外として、

  • 当事者双方が「遺留分を侵害することを知っていた」場合
    → 10年を超えても対象

となります。


② 第三者に対する生前贈与

相続人以外(例:内縁配偶者、孫、友人、法人など)への贈与は扱いが異なります。

🔹 原則

相続開始前1年以内の贈与のみが対象です。


🔹 例外

贈与時に

  • 贈与者
  • 受贈者

双方が
「遺留分権利者に損害を与えることを知っていた」場合
  1年を超えても対象。

まとめ(期間の違い)

贈与の相手対象となる期間
相続人(特別受益に限る)10年以内
第三者1年以内
悪意(双方が侵害を認識)期間制限なし

遺留分侵害額の計算方法

① 遺留分算定基礎財産

相続開始時の財産+ 生前贈与(持戻し対象)- 相続債務

② 遺留分割合

  • 直系尊属のみが相続人:1/3
  • それ以外:1/2

③ 各相続人の遺留分

遺留分算定基礎財産 × 遺留分割合 × 法定相続分

④ 遺留分侵害額

本来の遺留分 − 実際に取得した財産

この差額を金銭で請求します。

【事例1】配偶者+子2人の場合

家族構成

  • 長男
  • 次男

財産状況

  • 遺産:6,000万円
  • 生前贈与(長男に住宅資金):1,000万円(10年以内・特別受益)

STEP① 遺留分算定の基礎財産

6,000万円(遺産)+1,000万円(特別受益)=7,000万円

これが基礎になります。


STEP② 法定相続分を確認

配偶者と子の場合

  • 妻:1/2
  • 子全体:1/2(各1/4)

STEP③ 遺留分割合を掛ける

このケースは「直系卑属あり」なので遺留分は 法定相続分の1/2が遺留分割合になります。

妻の遺留分

7,000万円 × 1/2 × 1/2=1,750万円

長男の遺留分

7,000万円 × 1/4 × 1/2=875万円

次男の遺留分

7,000万円 × 1/4 × 1/2=875万円

STEP④ 実際の取得額と比較

仮に遺言で

  • 妻:0円
  • 長男:全財産取得
  • 次男:0円

だった場合

長男の実取得額

6,000万円(遺産)+1,000万円(生前贈与)=7,000万円

次男の不足額

本来875万円−取得0円=875万円請求できる

妻の不足額

本来1,750万円−取得0円=1,750万円請求できる

支払方法

  • 原則:一括金銭払い
  • 例外:相手方の資力などを考慮し、裁判所が分割払いや支払期限の猶予を認める場合あり

消滅時効

遺留分侵害額請求権には、2つの時間制限があります。

  • 侵害を知った時から 1年
  • 相続開始から 10年

どちらか早い方で時効消滅します。

まとめ

遺留分制度は、「どんな遺言でも絶対に有効」というわけではなく、一定の相続人に最低限の取り分を保障する制度です。
遺留分は、知らなければ請求できない・期限を過ぎれば消えてしまう・ 感情対立が激しくなりやすいという特徴があります。
そのため、「うちは大丈夫だろう」と思わず、早い段階で整理しておくことが大切です。
相続は、財産の問題であると同時に、家族関係の問題でもあります。
正しい知識を持つことで、不要な争いを防ぐことができます。
遺留分について疑問がある場合は、事前に専門家へ相談することも検討してみてください。

※本記事は、平成30年民法改正による遺留分制度について、一般的な解説を行うものです。
実際に遺留分が認められるかどうかは、具体的な事実関係や証拠等を踏まえて判断されるため、個別のご相談については専門家に直接ご確認ください。

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